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66-9.椀形滓の分別は判定基準の登竜門 [66.弥生時代に製鉄はなされたか?]

椀形滓と呼ばれる鉄滓がある。すり鉢型に掘った鍛冶炉の底に溜まった鉄滓で、上面はフラットで下部にはアールがついており、横からみるとお椀の形をしており椀形鍛冶滓とも呼ばれている。椀形滓は精錬鍛冶滓か鍛錬鍛冶滓で、製錬滓はないと考えられており、私の鉄滓の判定基準が通用するかどうかを見極めるための登竜門である。判定基準は横軸を鉄の成分%(T・Fe)とし、縦軸をTiMn指数として、製錬/鍛冶直線の上の領域にあれば製錬滓、直線の下の領域にあれば鍛冶滓で、精錬/鍛錬直線の上の領域にあれば精錬鍛冶滓、横線の下の領域にあれば鍛錬鍛冶滓である。

 

Z278.椀形滓の分別.pngこの判定基準で139個の椀形滓を検証してみた。図Z278に見られるように、明確に製錬滓の領域にプロットされたのが10点(境界線近くは省く)の7%で、実に92%が鍛冶滓の領域にプロットされている。これからしても、私の判定基準の信頼性が高いことが分かっていただけたかと思う。なお、私の判定基準では精錬鍛冶滓と鍛錬鍛冶滓を明確に別けることが出来るが、この信頼性がどれくらいあるかは不明である。

 

製錬滓の領域に入った10点の椀形滓の詳細内容を調べると、10点全てが精錬鍛冶滓と判定されていたが、「製錬滓に匹敵する。」「製錬滓の可能性を否定出来ない。」「製錬滓との分離が悪い鍛冶原料が搬入されており、更なる除滓作業(精錬鍛冶)が必要であったと推察される。」「荒鉄(製錬生成鉄で、表皮スラグや捲き込みスラグ、更には炉材粘土などの不純物を含む原料鉄)の不純物除去の精錬鍛冶滓に分類される。」などの意見が添えられていた。要は、製錬滓の領域に入った10点の椀形滓は製錬滓と精錬鍛冶滓が交じり合って出来た椀形精錬鍛冶滓であったのである。

 

「たたら製鉄」では、製錬で造られた鉧(けら)や銑(ずく)の塊は多量のノロ(鉄滓)が付着している。この塊を大鍛冶場で割り、鉧・玉鋼や銑を取り出す。このときに出るノロ(鉄滓)はあくまでも製錬滓である。精錬滓とは鉧や銑を再加熱し鍛造・脱炭するときに出来る鉄滓である。しかし、精錬の原料となる鉧や銑に、まだ製錬滓であるノロが多量に付着していたら、製錬滓が混じった椀形精錬鍛冶滓が出来上がる。これは「たたら製鉄」以外の製鉄でも同じである。

 

前章では鉄滓の生い立ちが何であるか、専門家が判定した鉄滓(製錬滓214点、精錬鍛冶滓42点、鍛錬鍛冶滓93点)と、私の判定を比較した。専門家と私の判定は、製錬滓で93%と合致し、精錬鍛冶滓は72%、鍛錬鍛冶滓は85%が合致していた。精錬鍛冶滓の合致率が低かったのは、精錬鍛冶滓の原料に製錬滓が混じることがあるためであり、私の判定基準に問題があるためではなかった。図Z276-1.に示すように、直線y=0.04x-0.8とy=0.04x-0.3の間の製錬滓の範囲(以後「精錬混入域」と呼ぶ)には精錬鍛冶滓が紛れ込んでいることを留意しておく必要がある。

Z276-1.鉄滓の素性判定.png

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