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73-8.鉄滓の製鉄工程(製錬・精錬・鍛錬)の分類 [73.日本の製鉄(製錬)の始まりは何時か?]

Z461.天辰分類.png遺跡から出土した鉄滓が、製錬・精錬・鍛錬の何れの製鉄工程で発生したものであるかを知るために化学分析がなされ、その組成から製鉄工程の分類が行われている。ただ、その判別は大澤正己氏等の金属学に精通した分析の専門家に委ねられているのが現状である。天辰正義氏が「出土鉄滓の化学成分評価による製鉄工程の分類」の論文を平成16年に発表している。論文には二酸化チタン(i2)と全鉄量(Total Fe)の関係から、製鉄工程の分類を求める図表が示されてあり、分析の専門家外のものでも理解できるようになった。図461が天辰氏が示した出土鉄滓の工程分類図である。〇付着滓(ガラス質滓)、が砂鉄製錬滓、▲が砂鉄精錬滓、■が鉱石製錬滓、△が鍛錬鍛冶滓(砂鉄・鉱石)である。天辰氏は鉱石精錬滓の領域を定めていないが、鉱石製錬滓と鍛錬鍛冶滓にまたがった領域と推定される。これからすると、i2とT-eの指標では、砂鉄製錬滓は分類できるが、鉱石製錬滓は鉱石精錬滓や鍛錬滓(砂鉄・鉱石)と混じり合い、製鉄工程の分類が出来ない欠点があるのではないかと思える。分析の専門家は顕微鏡下で、製錬・精錬・鍛錬の工程で固有の相・組織を観察して、製鉄工程の分類が行っている。

 

私は始発原料の判定指標にTi2/MnOの値を基本として使用した。それは、砂鉄にはTi2が多く、鉱石にはMnOが多いからである。これらからTi2含有量の評価を小さくし、MnO含有量の評価を大きくして合計したものを指標とすれば、砂鉄製錬滓領域と鉱石製錬滓領域が同じレベルになり、鍛錬滓(砂鉄・鉱石)と明確に区別できることに気が付いた。そして(Ti2/5+MnO*2)とT-eの指標が製鉄工程の分類に有用であることを発見した。ただ指標としては、SQRT(Ti2/5+MnO*2)を使用している。平方根(SQRT)を使用したのは、10以上の大きい値を小さく、1以下の値を大きくして図表を見やすくするためである。なお、この製鉄工程判定指標を今後“製鉄指標”と表記する。

 

Z462.鉄滓の製鉄工程分類.pngこの製鉄指標で、製錬滓・精錬滓・鍛錬滓の分類を何れの値にすれば、分析専門家の判定と相違が少なくなるかを調べ、決定したのが図462である。Aが製錬滓、Bが精錬滓、Cが鍛錬滓の領域である。(AB)領域では製錬滓と精錬滓が共存し、斜線はY=0.04X-0.75Y=0.04X-1である。(BC)領域では製錬滓と鍛錬滓が共存し、横線はY=0.75Y=0.6である。Ⅾ1・Ⅾ2の領域は、鉄滓が炉床・炉壁の粘土と反応し、ガラス質の新たな組成の鉄滓に変質する領域で、分類が出来ない領域とした。これならば、鉄滓の分析値があれば、その全ての製鉄工程の分類が誰にでも出来る。


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73-9.鉄滓の製鉄工程分類の信頼性は88%以上 [73.日本の製鉄(製錬)の始まりは何時か?]

Z463.製鉄工程判定VS.png前節では、鉄滓の分析値があれば、製鉄工程の分類が誰にでも出来る製鉄指標を示した。問題はこの指標の信頼性が高いものであるかどうかである。私はこの指標でもって、全国(北海道・沖縄除く)の217遺跡の718点の全ての鉄滓(砂鉄・鉱石)の製鉄工程を分類した。この鉄滓の中には、工程の判別が出来ないⅮ領域の鉄滓が43点あり、分類出来たのは675点あった。この判定が分析者の分類と相違があるかどうかを調べたのが表463である。合致率は製煉滓の不合致率が響き88%であった。合致した578点の分布を図464の左に砂鉄、右に鉱石を示した。が製錬滓、が精錬滓、が鍛錬滓である。

 

464.砂鉄鉱石工程分類.png

製鉄工程の分類が合致しなかった82点の鉄滓の分布図を図465に示した。合致しなかった鉄滓の中で、BC(精練滓+鍛錬滓)領域の近くに集中してある製煉滓が気になった。図466は原料の分布図で、が砂鉄、が鉱石である。原料を製錬すると、その製錬滓は原料の左上または左の組成となり、出来た精錬系鉄塊は右下または下の組成になることが予想される。BC領域の近く製煉滓は、図466の右下にあるTi2とMnOの少ない原料を製錬して出来たものと考えられる。これらの製錬滓に鉱石系のものが多いのがそれを証明している。合致率が88%と上がらなかったのも、これらが大きく影響していた。

 Z465.466NG・原料分布図.png

私の目的は5世紀以前に製錬を伴なう製鉄が行われたという証拠の鉄滓を分析値から見つけることである。もしも、製煉滓のみならず精錬滓もその証拠になるのであれば、合致しなかった鉄滓をプロットした図465の製錬領域にある精錬滓も、精錬領域にある製錬滓も、その証拠となる鉄滓となる。5世紀以前に製鉄が行われた証拠を、製鉄指標が0.75以上の鉄滓としたとき、製錬滓・精錬滓を選別する信頼性は95%(鉄滓435点中20点が鍛錬滓)あると言える。なお、原始的な製錬方法は直接製錬と言われ、1150前後の低温で錬鉄(海綿鉄)を造り、鍛打して鉄塊にしている。原料としては鉄の含有率の高い、不純物(Ti2,MnO)の少ない鉱石・砂鉄が用いられる。これらからすると、直接製錬の製錬滓は図表465の▲●のように精錬領域にあることが多く、その意味でも製鉄が行われた証拠には、製錬滓と精錬滓の両者を選別しておく必要がある。


 


 

 


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