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74-16.富雄丸山古墳の盾形銅鏡は統一国家の象徴 [74.「記紀」で解く「空白の世紀」の150年]

 

Z496.盾形鏡.png 2023年1月25日奈良市教育委員会と県立橿原考古学研究所は奈良市にある日本最大の円墳・富雄丸山古墳(直径約109m)の造り出し部にある粘土槨(埋葬施設)から、盾形銅鏡(長さ60cm、幅30cm)と、蛇のように曲がった蛇行剣(長さ2.3m、幅6cm)が出土したと発表した。盾形銅鏡はと過去に例のない形で、出土した鏡の中では最大である。、蛇行剣は今まで出土した85個の中で、最も古くかつ最大であるという。富雄丸山古墳の古墳年代は古墳時代前期、4世紀後半であるとされている。しかし、1年前に奈良市が制作した動画「日本最大の円墳 富雄丸山古墳」では、富雄丸山古墳の古墳年代は佐紀古墳群にある佐紀陵山古墳と同じ年代の4世紀中頃としている。また、奈良市教育委員会が2021年3月に出版した「富雄丸山古墳調査 第1次~3次」では、富雄丸山古墳の年代は、埴輪編年Ⅱ期の4世紀中頃~後半とある。富雄丸山古墳の築造年代は、いったいいつ頃なのであろうか?


Z499.古墳時代区分.png円筒埴輪の編年を確立した川西宏幸氏は、1988年に著書『古墳時代政治史序説』に「円筒埴輪総論」の論文を掲載している。この論文の円筒埴輪編年において、畿内大和の円筒埴輪Ⅱ式のトップが富雄丸山古墳、二番目に日葉酢媛陵(佐紀陵山古墳)が掲載されている。そして、川西宏幸氏は円筒埴輪Ⅱ期の年代をほぼ4世紀後葉としている。この年代が決められた頃は、箸墓古墳の年代は320年頃と考えられていた。近つ飛鳥博物館2013年発行の「考古学からみた 日本の古代国家と古代文化」では、箸墓古墳を含む最古の前方後円墳の出現時期を3世紀中葉すぎとみる考え方が主流になりつつある記載している。そして、円筒埴輪の編年の解説では、円筒埴輪Ⅱ期は4世紀中葉としている。図499は、私が9092基の古墳の遺構・遺物から導き出した、埴輪と須惠器の型式編年表である。私は埴輪Ⅱ式()を280年から340年と捉えている。


山口県柳井市にある柳井茶臼山古墳は墳長90mの前方後円墳である。この古墳から直径44.cm(面積1575㎠)のダ龍鏡が出土している。古墳の年代は4世紀末とされているが、倭製鏡(280~600年)と器台型埴輪(250~320年)から、私は、柳井茶臼山古墳の年代は280~320年と判定している。富雄丸山古墳と柳井茶臼山古墳は、年代を決定した要素は違うが、築造年代は同じ頃である。富雄丸山古墳の盾形銅鏡の面積は1800㎠で柳井茶臼山古墳のダ龍鏡の1.14倍に過ぎない。両者は同じ技術で、同じ時期に造られた鏡と考えられっる。富雄丸山古墳の年代も280~320年頃であると考える。富雄丸山古墳の年代を300年頃とすると、「新縮900年表」でみると垂仁天皇が崩御し景行天皇が即位する頃の古墳であることが分かる。


盾形鏡のデザインは何から発想されたものであろうか。古墳の棺の外側あるいは内側におかれる鏡は、悪霊から被葬者を守るものと言われている。奈良県天理市の黒塚古墳は33面の三角縁神獣鏡を出土した前期古墳であるが、三角縁神獣鏡の全てが棺の外側に被葬者を守るように立てかけられている。古墳前期の前半から鏡が盾であるという概念があったように思われる。私が特に注目するのは、盾形の周濠が登場するのが300年頃から登場することである。盾形の周濠は悪霊から古墳を守るものと言う意味合いがあるように思える。盾形の周濠は古墳年代を決める遺構・遺物の152の要素に入れていなかったが、今回調べてその重要性を初めて認識した。盾形鏡が出土した富雄丸山古墳の築造年代と重なることが興味深い。


Z495.矛と盾の配布.png景行天皇のあとを継いだのが第四子の成務天皇(335~341年)である。成務5年(339年)には「諸国に令して国郡に造長を立て、県村に稲置をおき、それぞれ盾矛を賜って印とした。」とある。9092基の古墳の資料の中で、鉄矛が出土した古墳は246基ある。鉄矛が出土した古墳の中で時代区分が明らかでを選び出し、その中で盾と鏡が出土した古墳数を調べたのが右表である。盾は木製枠に革を張り漆を塗って作られており、有機質のものであるので残存することが低いこともあろうが、表からは、矛と盾を配布されたようには見受けられない。古墳前期においては、矛が出土した古墳の90%から鏡が出土している。鏡が盾であるという概念があり、成務天皇が地方の首長に配布したのは矛と盾ではなく、矛と鏡であったと思われる。歴史学者の間では、成務天皇の存在すら比定する方が多いが、成務天皇は実在し、成務朝には統一国家の基盤が出来上がっていたように思われる。富雄丸山古墳の盾形鏡は統一国家の象徴である。


 


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74-17.富雄丸山古墳の被葬者は田道間守命 [74.「記紀」で解く「空白の世紀」の150年]

 

Z485-1.田道間守墓.png『書紀』垂仁90年には、天皇は田道間守に命じて常世国に遣わして非時の香果を求められた。いま橘というのはこれである。垂仁99年天皇は纏向宮で崩御になり、菅原の伏見陵に葬った。翌年、田道間守が帰国し、垂仁天皇が崩御されているのを知り、非時の香果を持ち帰るののに10年経ってしまったと、天皇の陵の前で泣き叫び死んだ」とある。垂仁天皇陵(宝来山古墳)の周濠内にある小さな小島が田道間守の墓であるとの言い伝えがあり、濠の傍には「田道間守命御塚拝所」の石碑が立っている。「新縮900年表」では、垂仁90年は302年、垂仁99年は303年である。田道間守が遣わされたのは2年で行き帰りした近くの国である。垂仁紀は69年延長されており、遠くはるかな常世国に10年かけて行って来たという物語が出来たのであろう。


垂仁3年(276年)には「新羅の王子・天日槍が来た。持つて来た珠・槍・刀子・大刀・鏡を但馬国の神宝とした。一説によれば、天日槍は但馬国の出石の人、太耳の娘を娶って、但馬諸助を生んだ。諸助は但馬日楢杵を生んだ。日楢杵は清彦を生んだ。清彦は田道間守を生んだという。」とあり、田道間守は天日槍の玄孫(やしゃご)としている。しかし、渡来してきたのが垂仁3年(276年)で、田道間守が常世国に遣わされたのが垂仁90年(302年)とすると、天日槍が出石の太耳の娘を娶り生まれた子供が田道間守と考えられる。それならば、田道間守が遣わされた常世国は新羅国であったと考える。『三国史記』新羅本紀基臨王3年(300年)には、「倭国と国使いを交換した。」とあることと、ほぼ一致している。Z485-2.中嶋神社.png


田道間(タジマ)守は新羅の王子・天日槍の子孫であり、但馬(タジマ)国が本拠地である。但馬国、兵庫県豊岡市三宅に、田道間守を祭神とする中嶋神社がある。橘を持ち帰った田道間守をお菓子の神様「菓祖神」として、全国の菓子業の人々が崇拝している。平安時代に撰述された『国司文書』には、中嶋神社は推古天皇15年(606年)、田道間守命の7世の子孫である三宅吉士が、祖神として田道間守命を祀ったのに創まるといい、「中嶋」という社名は、田道間守命の墓が垂仁天皇陵の池の中に島のように浮かんでいるからという。


Z485-3.茶すり山古墳.png中嶋神社の南に直線距離で5㎞に出石神社があり、祭神は新羅より渡来した王子の天日槍である。出石神社の南に直線距離で15㎞の所に茶すり山古墳がある。兵庫県朝来市和田山町の茶すり山古墳は直径90mの円墳で、近畿地方では富雄丸山古墳に次ぐ規模の円墳である。茶すり山古墳の第一主体部からは7点の盾(鋸歯文アリ)、3面の鏡(盤龍鏡・神獣鏡・連弧文鏡)、2本の蛇行剣が出土している。茶すり山古墳は但馬国にあり、田道間守命の子孫と関係があると思われる。茶すり山古墳の築造年代5世紀前葉とされている。茶すり山古墳からは三角板革綴短甲・長方板革綴短甲が出土しており350~470年の範疇にある。茶すり山古墳からは円筒埴輪が出土しているが、その型式が何であるかの報告書は手にいれていない。円筒埴輪の写真みられる黒斑とスカシ孔からⅡ式かⅢ式の280~380年の範疇であることが分かる。これらより、茶すり山古墳の築造年代は350~380年に絞ることが出来る。


富雄丸山古墳から出土した盾形銅鏡の出土はないが、茶すり山古墳からは盾が7点も出土しており、盾形銅鏡にある鋸歯文の文様がある。盾形銅鏡の文様にあるダ龍鏡はないが、龍をモチーフとした倭製の盤龍鏡が出土している。そして、富雄丸山古墳の蛇行剣ほど大きくはないが2本の蛇行剣も出土している。大型の円墳、鋸歯文のある盾、龍を龍をモチーフとした倭製の鏡、出土例が全国で85本しかない珍しい蛇行剣など共通点が多く、富雄丸山古墳の年代が280~320年頃、茶すり山古墳の年代が350~380年と築造年代は2~3世代異なるが、富雄丸山古墳と茶すり山古墳の間に、何らかの関係性があるように思える。


私は、富雄丸山古墳の被葬者を田道間守と想定している。富雄丸山古墳は垂仁天皇陵(宝来山古墳)の西南西4㎞にあり、田道間守が亡くなったのは垂仁天皇の崩御とそれほど変わらない時期であったことから「天皇の陵の前で泣き叫び死んだ」という故事が生まれたのかもしれない。また、富雄丸山古墳の出土品と但馬国にある茶すり山古墳の出土品に類似点があるのも納得できるし、両者が大型の円墳であることは、新羅の王子・天日槍の子孫で4世紀代の新羅の墳形を意識してのことかも知れない。「新縮900年表」では垂仁天皇の崩御は303年、富雄丸山古墳の築造年代は280~320年頃とピッタリ一致している。


 


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