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64-7.紫金山古墳の埴輪型式に物申す [64.古墳の年代をエクセルで決める]

紫金山古墳(茨木市)は古墳年代決定プログラムにおいて、円筒埴輪Ⅰ式(290~319年)と竪矧板革綴式短甲(340~369年)の交差により、年代の決定が不可となった古墳である。紫金山古墳は未盗掘の古墳で京都大学が発掘調査を行っており、その関係者である坂口英毅氏は『前期古墳解明への道標 紫金山古墳』(以降『紫金山古墳』)を著している。その本にも紫金山古墳の円筒埴輪はⅠ式と書かれてあり、埴輪Ⅰ式の判定が間違っているのか、私の埴輪型式の年代、あるいは竪矧板革綴式短甲の年代が間違っているか、『紫金山古墳』の著者との一騎打ちである。

 

近つ飛鳥博物館編集の『考古学からみた日本の古代国家と古代文化』には、円筒埴輪の編年についてまとめている。それを参考にして、埴輪Ⅰ式と埴輪式の違いをZ239にまとめた。これを見ると、埴輪式と断定できる要因は数個あるが、埴輪Ⅰ式と断定できる要因は、突帯と突帯の間の円周に▽・△・□の形状のスカシ孔が3個以上あるかどうかだけである。『紫金山古墳』の終りには、「第二次調査以降は、円筒埴輪列を検出することができておらず、その詳細はほとんど明らかになっていない。出土した埴輪にも、全形を復元できるような遺存状況の良好な固体はなく、今後の資料の増加が期待される。」と書かれてある。
Z239.円筒埴輪編年.png

紫金山古墳の円筒埴輪の写真を見ると、黒班と△形状のスカシ孔が1個あるものが復元されている。これからは埴輪Ⅲ式ではないことが分かるが、埴輪Ⅰ式か埴輪Ⅱ式かの判断は付かない。紫金山古墳の円筒埴輪が埴輪Ⅰ式である証拠は無いのである。坂口氏は状況証拠として、「紫金山古墳の円筒埴輪は最上段突帯が口縁端部の直下をめぐり、外反が短く終わる極狭口縁である。「極狭口縁」をもつ円筒埴輪が出土した古墳には、副葬品から前期中頃に位置づけられる例が多いことから、紫金山古墳の円筒埴輪はⅠ期でも後半段階の所産と見てよい。」としている。

 

坂口氏は「副葬品を利用して古墳の年代を検討しようとする場合、多くの古墳から出土例があり、なおかつそれ自体の編年研究が進んでいる品目を選択することが望ましい。紫金山古墳の場合は、鏡と(腕輪型)石製品がもっとも有効な品目であろう。貝輪・筒形銅器・竪矧板革綴短甲などは、品目そのものや同一の型式に属する事例が稀少ないし皆無であるため、条件に適さない。」としている。紫金山古墳からは、舶載三角縁神獣鏡のC段階1面と仿製(倭製)三角縁神獣鏡のⅠ段階6面・Ⅱ段階3面、そして鍬形石6個、車輪石1個が出土している。表Z240は埴輪の型式別に、これらの品目が出土する古墳の数を求めたものである。これらからすると、紫金山古墳の三角縁神獣鏡と石製腕飾は円筒埴輪をⅠ期とする状況証拠にはなり得ないことが分かる。

Z240.紫金山古墳遺物1.png

 

紫金山古墳の円筒埴輪が埴輪Ⅰ式であることが状況証拠でしかないのであれば、私にも言い分がある。紫金山古墳から出土した遺物に、ひれ付円筒埴輪、竪矧板革綴短甲1領、筒形銅器1個、棗玉4個がある。表Z241は、埴輪の型式別にこれらの遺物が出土する古墳の数を求めたものである。埴輪Ⅰ式に示す“1”は全て紫金山古墳である。埴輪Ⅰ式の出土する古墳で、ひれ付円筒埴輪、短甲(竪矧板革綴以外も含む)、筒形銅器、棗玉の遺物が出土する古墳は紫金山古墳以外にはまったく無く、状況証拠としては、紫金山古墳の円筒埴輪は埴輪Ⅱ式と言える。

 

Z242.松岳山鰭付楕円筒埴輪.pngなお、紫金山古墳からは、ひれ付楕円筒埴輪の破片が出土している。このひれ付楕円筒埴輪はひれの形状、突帯間隔などが大阪府柏原市の松岳山古墳出土(Z242:右下隅は紫金山古墳)のものと似ている。松岳山古墳のひれ付楕円筒埴輪には突帯と突帯との間に三角の形状のスカシ孔が6個あり埴輪Ⅰ式と言える要素である。近つ飛鳥博物館編集の『百舌鳥・古市古墳群出現前夜』では、松岳山古墳の円筒埴輪の型式をⅠ式としているが、「遺跡ウォーカー」では松岳山古墳の円筒埴輪の型式をⅡ式とある。楕円筒埴輪のスカシ孔の数は、川西氏の定義した円筒埴輪の型式に当てはまらないのではないかと思う。

 

『紫金山古墳』では紫金山古墳の年代は4世紀前半としているが、古墳年代決定プログラムよれば、円筒埴輪の型式を無視すれば年代の決め手が竪矧板革綴短甲で年代は340~369年となり、違いはそれほど大きくない。紫金山古墳の円筒埴輪の型式がⅠ式ではなくⅡ式であり、私の埴輪型式の年代、あるいは竪矧板革綴式短甲の年代は間違っていないと思える。


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