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54-6.ヲワケ臣は舎人として雄略天皇に仕えた [54.『日本書紀』から探るウジとカバネの史実]

稲荷山鉄剣を作らせ、8代の系譜を金象嵌させたのは、8代目の「ヲワケの臣」である。ヲワケ臣は、ワカタケル大王がシキの宮にいて天下を治めた時に、杖刀人の首として仕えている。書紀では雄略天皇の宮は泊瀬朝倉宮、鉄剣銘ではシキの宮と違っている。朝倉宮の有力候補地とされる脇本遺跡から、桜井市金屋にある欽明天皇の磯城嶋金刺宮の伝承地まで1km、崇神天皇の磯城瑞籬宮の伝承地までは2kmと離れてなく、その違いを云々するまでもないだろう。ヲワケ臣は、杖刀人(刀を杖つく人:護衛隊)の首(首長)として、ワタカケル大王に仕えている。江田船山古墳出土の銀象嵌鉄剣銘には、「治天下獲□□□鹵大王世、奉事典曹人 名无利弖」とあり、无利弖は典曹人(役所の文章をつかさどる人:文官)として、ワタカケル大王に仕えている。

『日本書紀』には杖刀人・典曹人の言葉は出て来ないが、雄略天皇の時代には、地方の豪族あるいはその子弟が、都まで出向いて王権(天皇)に直接仕えるシステムがあったのであろう。『日本書紀』雄略7年8月の記事に「官者の吉備弓削部虚空は、急
(いとま)を取り家に帰った。吉備下臣前津屋(ある本に、国造吉備臣山というとある)が、虚空を留めて使い、何ヶ月経っても京都に上ることを許さなかった。」とある。官者は舎人(とねり)、天皇に仕え宮廷の警備や雑用に従事していた者と解釈されている。『日本書紀』を「舎人」の用語で検索すると、仁徳紀が3件、允恭紀が1件、雄略紀には12件出てくる。地方から都に出て天皇に仕える制度が雄略天皇の時代に始まったと考えられる。杖刀人・典曹人は舎人であったとすれば、『日本書紀』、稲荷山鉄剣金象嵌銘文、江田船山鉄剣銀象嵌銘文が結び付いてくる。

稲荷山鉄剣を作らせ、8代の系譜を金象嵌させた「ヲワケの臣」には、「臣」のカバネが付いているが、ウジの名は冠していない。書紀には個人名として「名前+臣」の表現もしばしば使われている。護衛隊の首長として雄略天皇に仕えていたヲワケは、臣の呼称を付けて呼ばれていたのであって、カバネとしての臣の地位を得たものではないと考える。雄略紀には臣のカバネを持つ13の氏族が登場するが、オワケ臣が雄略天皇(464~484年)に仕えたのは、471年(辛亥の年)まで雄略朝の初め頃であり、有力豪族にウジとカバネの称号を与える制度は、まだ確立されていなかったからであろう。

Z87.埼玉古墳群.png『日本書紀』安閑元年(534年)の記事に「武蔵国造の笠原直使主(おみ)が同族の小杵(おき)が国造の地位を争うった。小杵が上毛野君子熊に助けを求めて、使主を殺そうとしたので、使主は京にのぼって事情を報告した。朝廷は裁断を下して使主を国造とし、小杵を殺した。国造使主は横渟・橘花・多氷・倉樔の4ヶ所の屯倉を設けたてまつった。」とある。行田市の埼玉古墳群には前方後円墳8基と1基の円墳1基の大型古墳がある。奈良文化財研究所の城倉正祥氏は、首長墓から出土した埴輪の生産地をすべて把握し、生産地の窯の物理的前後関係から編年を確立して、埼玉古墳群における古墳の変遷を明らかにしている。
  稲荷山古墳→丸墓山古墳→二子山古墳→瓦塚古墳→奥の山古墳→
  愛宕山古墳→将軍山古墳→鉄砲山古墳→中の山古墳

これらの古墳の中で、最も大きな古墳が二子山古墳である。武蔵の国造笠原直使主を二子山古墳の被葬者とすれば、ヲワケ臣の孫の時代になって、一族は始めて「笹原」のウジ名と「直」のカバネを得たとすると、話は合ってくる。また、国造笠原直使主の名前の使主(おみ)と祖父のヲワケ臣(おみ)が一致するところも繋がりを感じる。笠原直使主が京に赴き、朝廷に事の事情を訴えることが出来たのも、一族が代々護衛隊の首長として天皇に仕えてきたからである。使主が窮状を訴えたのは、護衛隊の取りまとめを行っていた大伴大連金村であった。大伴金村は継体天皇の時代、任那の4県を百済に割譲を勧めたこともあって、その失策を取り戻すべく、武蔵国の4屯倉を朝廷に差出すことを条件に、天皇に訴えを取り次いだのであろう。

埼玉古墳群の被葬者は、埼玉郡笠原(現在の鴻巣市笠原)に拠点を持った武蔵国造一族と考えられるが、『日本書紀』の神代には、武蔵国造の先祖は出雲臣と同祖の天穂命としているのに対し、稲荷山鉄剣銘では大彦命としている点が矛盾している。それはさておき、115文字が金象嵌された稲荷山鉄剣は、その歴史的・学術的価値から国宝に指定されている。「世紀の大発見」と言われる金象嵌の115文字が明らかにしたものは、それまでの歴史学者がとなえていた歴史観ではなく、『日本書紀』に史実が書かれているということである。


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