SSブログ

41-9.幻の横穴式石室 [41.古墳時代の3期区分を考える]



市尾墓山古墳は円筒埴輪Ⅴ式、須恵器MT15・TK10の時代(集成編年9期)の時代に造られている。私は市尾墓山古墳が造られた時代より前の、円筒埴輪Ⅴ式、須恵器TK23・TK47の時代(集成編年8期)に造られた大型の横穴式石室を求めた。大阪府八尾市の郡川西塚古墳は墳長さ60mの前方後円墳で、横穴式石室内から出土した須恵器がTK47・MT15で時期は条件に合っている。郡川西塚古墳の横穴式石室の寸法は、奥行き5.4x幅3.6mで高さは調べたが分からなかった。市尾墓山古墳の横穴式石室は奥行5.9x幅2.5mで、床面積で比べると郡川西塚古墳は19.4㎡、市尾墓山古墳は14.8㎡であり、石室の空間は郡川西塚古墳の方が市尾墓山古墳よりも遥かに大きいことが伺われる。



郡川西塚古墳からは、画文帯神獣鏡などの鏡が5面、武具の鋲留短甲や鉄剣、そして金環・銀環・銀製垂飾付耳飾の装身具が出土している。特に画文帯神獣鏡は、雄略天皇を指す「ワカタケル大王」の銘を銀象嵌した鉄剣が出土した、江田船山古墳出土の鏡と同笵(同じ鋳型でつくられた)である。郡川西塚古墳は明治35年に発見されたこともあり、副葬品も素晴らしいものでありながら、初期の大型横穴式石室としてあまり評価を受けていない。

 K25宇治二子塚古墳.jpg

郡川西塚古墳より古い大型横穴式石室がないかと探すと、円筒埴輪Ⅳ式とⅤ式、須恵器TK23とTK47が共伴している宇治二子塚古墳がヒットした。宇治二子塚古墳は京都府宇治市にある墳長約112mの前方後円墳である。1987年からの宇治教育員会の発掘調査で、二重の周濠であったことが確認された。二重の周濠を持つ前方後円墳は応神天皇陵古墳・仁徳天皇陵古墳など大王の古墳に限られ、宇治二子塚古墳の被葬者も大和王権に関わりがある人物ではないかと考えられている。


K27 宇治二子塚天井石.jpg古墳は大正2・3年に鉄道施設に伴い、後円部の土が採り崩され、現在残るのは前方部と周濠の一部だけである。京都大学の梅原末治氏は古墳破壊の報に接し現地を訪れている。その時には、石室は破壊されており大石が3・4個残っていただけであるが、埋葬施設は大石を用いた横穴式石室らしいと判断されている。宇治二子塚古墳の横に在る西方寺の裏庭にある巨石(高さ3
.2x幅2.8m)は、古墳破壊の時にその天井石の一石をここに運び庭石としたと言われている。


K28 宇治二子塚古墳基礎.jpg宇治教育委員会は1987年から宇治二子塚古墳の発掘調査を初め、その翌年には、後円部中央に東西16x南北8x深さ4
.3mの巨大で堅牢な基礎を発掘している。その基礎は20~40㎝大の河原石を積み重ねながら、その隙間を土で固めて造られており、横穴式石室の石の重みを受け止めるためのものであった。全国に普及した横穴式石室の初現と見られている市尾墓山古墳にも、同様の基礎があることが確認されており、宇治二子塚古墳の横穴式石室の存在は確実なものとなった。



大阪府高槻市にある今城塚古墳は墳長190mの前方後円墳であり、真の継体天皇陵であると考えられている。戦国時代に城が築かれたこともあり、横穴式石室と思われる石室は消滅している。2007年に、今城塚古墳から東西17
.7x南北11.2x高さ0.8mの、コの字形の石組で囲った中に、20~40㎝大の石を敷き詰めながら土で固めた横穴石室の基礎が発見されている。なお、今城塚古墳の築造時期は円筒埴輪Ⅴ式で、造り出しから出土した須恵器はMT10・TK15であり、市尾墓山古墳と同じような時代である。

宇治二子塚古墳の石室の基礎は、その面積では今城塚古墳に及ばない(東西は同じで南北が2/3)が、深さでは今城塚古墳の約5倍もある。今城塚古墳は盛り土の上0.8m施行しているのに対して、宇治K29基礎模式図.jpg二子塚古墳は地山まで4.3mの基礎を行っており、今城塚古墳より丁寧な造り方である。現に今城塚古墳は安土桃山時代の伏見地震で基礎の部分も崩落している。横穴式石室の基礎工事から見ても、宇治二子塚古墳の被葬者は大和王権に関わりがある人物と考えられる。

K17埴輪・須恵器編年表.jpg宇治二子塚古墳からは円筒埴輪Ⅳ・Ⅴ式と須恵器TK23・TK47が出土しているが、図17に示したように、Ⅳ式のTK23・TK47とⅤ式のTK23・TK47は、古墳中期と古墳後期の境い目である。宇治二子塚古墳に存在していただろう幻の大型の横穴式石室は、古墳後期の始まりは円筒埴輪Ⅴ式(470年~)から、横穴式石室の時代であるという編年を立証している。なお、『宋書』倭国伝によれば、478年に「倭国王興死し、弟武立つ、武遣し上表す」とあり、「倭国王武」は雄略天皇と考えられている。古墳後期が雄略天皇の時代から始まるとすれば、政治的にも大きな画期である。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。