29-2.御堂遺跡の縄文ガラスの検証 [29.ガラスを透して古代を見る]
本州の最西端、山口県下関市の日本海側の海を響灘と呼んでいる。この響灘に面する沿岸に、縄文時代晩期の御堂遺跡がある。この遺跡の2基の土坑から、塊状(最大長さ28㎜・最大幅13㎜・最大厚み12㎜)と棒状(長さ12㎜・径3~4㎜)の、風化による劣化も少ない、透明度の高い淡青色のガラス塊が出土している。ガラスの専門学者は、縄文晩期の御堂遺跡出土のガラス塊を、近代ガラスが方含層に混入したと結論付けている。
二つのガラス塊の非破壊分析がなされ、Al2O3の含有量が極めて多く、CaOも比較的多い、名古屋市の白山藪古墳出土の小玉と成分が類似しているとしている。御堂遺跡出土のガラス塊の成分の詳細は知らないが、白山藪古墳の小玉と同じ組成であると仮定して検証してみる。これらの組成のガラスを、高アルミナ中石灰ソーダガラス(H.Al-M.Ca-SG)と表記する。
SiO2 Na2O K2O CaO MgO Al2O3
白山藪古墳小玉 60% 15% 3.7% 6.7% 0.42% 12%
ソーダガラスは、(K2O+MgO)/Na2Oの値で、原料にナトロン(天然Na2CO3)を使用したか、それとも植物灰を使用したかが分かる。ここではK2OとMgOを分けて検証してみた。高アルミナ中石灰ソーダガラスは、K2Oでは植物灰ソーダガラスに近く、MgOではナトロンに近いことが分かった。ガラスの専門学者が、縄文晩期の御堂遺跡出土のガラス塊を、近代ガラスが方含層に混入したと結論したのも、このような一般的には考えられない組成 のためであろう。
ナトロン 植物灰 H.Al-M.Ca-SG
K2O/Na2O 0.04 0.11 0.25
MgO/Na2O 0.04 0.22 0.03
話は変わるが、北海道の十勝地方は黒曜石の産地としては有名で、旭川市博物館では黒曜石の研究が盛んに行われている。その研究の一つに、縄文人は黒曜石を加熱処理する事により、黒曜石の表面に釉薬を塗ったようにコーティングを施し、表面の微細な傷を埋め、黒曜石全体の強度を高めていたと考え、その実証実験を行っている。そして、黒曜石を単に加熱しただけでは何の変化もないが、木灰の中に入れ300~400℃の温度で2~3時間加熱すれば、黒曜石の表面にコーティング層が形成されることを見つけている。
注目すべきことは、木灰を被せた黒曜石の表面は、図40に見られるように、時間と共にNa2Oの比率が高いコーティング層が形成されて行く事だ。この現象はNa2Oの成分のみに顕著に現れ、Al2O3・CaO・K2Oの成分はあまり変化していない。これらの現象は、黒曜石から選択的にNa成分が表層部に溶出し、コーティング層を形成しているとされているが、それでは滑らかなコーティング層は出来ない。私は、黒曜石が木灰にあるNa2Oを優先的に取り込み、コーティング層を形成したと考える。ただ木灰のNa2O成分はK2O
に比べて非常に少なく、どうしてこんな現象がおこるのか
不思議である。
高アルミナ中石灰ソーダガラスは、黒曜石がNa2Oを優先的に取り込む性質を利用して作られたと考える。黒曜石を細かく砕き木灰と混ぜ、300~400℃で24時間加熱し、それを水簸で分離し、10%の木灰と混ぜ、1000℃以上に加熱してガラスを作ったと考える。ただし、加熱処理した黒曜石は芯までNa2Oの拡散は行っておらず、平均すればその半分であったと仮定した。木灰の成分はオーク(コアラ・ミズナラ・カシワ)を採用した。これらから出来るガラス成分をみると、K2O/Na2Oの値は0.39、MgO/Na2Oの値は0.03とH.Al-M.Ca-SGに近い値となる。高アルミナ中石灰ソーダガラスは、黒曜石と木灰から出来たと考える。
SiO2 Al2O3 CaO MgO K2O Na2O
①黒曜石 78% 13 % 0.73% 0.15% 4.7% 3.53%
②24hr(木灰+黒曜) 60% 11% 1.10% 0.15% 3.5% 24%
③木灰(オーク) 7.0% 1.9% 63% 4.18% 15% 0.47%
(①+②)/2+③x0.1 64% 11% 6.6% 0.40% 5.1% 13%
H.Al-M.Ca-SG 60% 12% 6.7% 0.42% 3.7% 15%
二つのガラス塊の非破壊分析がなされ、Al2O3の含有量が極めて多く、CaOも比較的多い、名古屋市の白山藪古墳出土の小玉と成分が類似しているとしている。御堂遺跡出土のガラス塊の成分の詳細は知らないが、白山藪古墳の小玉と同じ組成であると仮定して検証してみる。これらの組成のガラスを、高アルミナ中石灰ソーダガラス(H.Al-M.Ca-SG)と表記する。
SiO2 Na2O K2O CaO MgO Al2O3
白山藪古墳小玉 60% 15% 3.7% 6.7% 0.42% 12%
ソーダガラスは、(K2O+MgO)/Na2Oの値で、原料にナトロン(天然Na2CO3)を使用したか、それとも植物灰を使用したかが分かる。ここではK2OとMgOを分けて検証してみた。高アルミナ中石灰ソーダガラスは、K2Oでは植物灰ソーダガラスに近く、MgOではナトロンに近いことが分かった。ガラスの専門学者が、縄文晩期の御堂遺跡出土のガラス塊を、近代ガラスが方含層に混入したと結論したのも、このような一般的には考えられない組成 のためであろう。
ナトロン 植物灰 H.Al-M.Ca-SG
K2O/Na2O 0.04 0.11 0.25
MgO/Na2O 0.04 0.22 0.03
話は変わるが、北海道の十勝地方は黒曜石の産地としては有名で、旭川市博物館では黒曜石の研究が盛んに行われている。その研究の一つに、縄文人は黒曜石を加熱処理する事により、黒曜石の表面に釉薬を塗ったようにコーティングを施し、表面の微細な傷を埋め、黒曜石全体の強度を高めていたと考え、その実証実験を行っている。そして、黒曜石を単に加熱しただけでは何の変化もないが、木灰の中に入れ300~400℃の温度で2~3時間加熱すれば、黒曜石の表面にコーティング層が形成されることを見つけている。
注目すべきことは、木灰を被せた黒曜石の表面は、図40に見られるように、時間と共にNa2Oの比率が高いコーティング層が形成されて行く事だ。この現象はNa2Oの成分のみに顕著に現れ、Al2O3・CaO・K2Oの成分はあまり変化していない。これらの現象は、黒曜石から選択的にNa成分が表層部に溶出し、コーティング層を形成しているとされているが、それでは滑らかなコーティング層は出来ない。私は、黒曜石が木灰にあるNa2Oを優先的に取り込み、コーティング層を形成したと考える。ただ木灰のNa2O成分はK2O
に比べて非常に少なく、どうしてこんな現象がおこるのか
不思議である。
高アルミナ中石灰ソーダガラスは、黒曜石がNa2Oを優先的に取り込む性質を利用して作られたと考える。黒曜石を細かく砕き木灰と混ぜ、300~400℃で24時間加熱し、それを水簸で分離し、10%の木灰と混ぜ、1000℃以上に加熱してガラスを作ったと考える。ただし、加熱処理した黒曜石は芯までNa2Oの拡散は行っておらず、平均すればその半分であったと仮定した。木灰の成分はオーク(コアラ・ミズナラ・カシワ)を採用した。これらから出来るガラス成分をみると、K2O/Na2Oの値は0.39、MgO/Na2Oの値は0.03とH.Al-M.Ca-SGに近い値となる。高アルミナ中石灰ソーダガラスは、黒曜石と木灰から出来たと考える。
SiO2 Al2O3 CaO MgO K2O Na2O
①黒曜石 78% 13 % 0.73% 0.15% 4.7% 3.53%
②24hr(木灰+黒曜) 60% 11% 1.10% 0.15% 3.5% 24%
③木灰(オーク) 7.0% 1.9% 63% 4.18% 15% 0.47%
(①+②)/2+③x0.1 64% 11% 6.6% 0.40% 5.1% 13%
H.Al-M.Ca-SG 60% 12% 6.7% 0.42% 3.7% 15%
2012-09-07 00:00
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