73-9.鉄滓の製鉄工程分類の信頼性は88%以上 [73.日本の製鉄(製錬)の始まりは何時か?]
前節では、鉄滓の分析値があれば、製鉄工程の分類が誰にでも出来る製鉄指標を示した。問題はこの指標の信頼性が高いものであるかどうかである。私はこの指標でもって、全国(北海道・沖縄除く)の217遺跡の718点の全ての鉄滓(砂鉄・鉱石)の製鉄工程を分類した。この鉄滓の中には、工程の判別が出来ないⅮ領域の鉄滓が43点あり、分類出来たのは675点あった。この判定が分析者の分類と相違があるかどうかを調べたのが表463である。合致率は製煉滓の不合致率が響き88%であった。合致した578点の分布を図464の左に砂鉄、右に鉱石を示した。●が製錬滓、●が精錬滓、●が鍛錬滓である。
製鉄工程の分類が合致しなかった82点の鉄滓の分布図を図465に示した。合致しなかった鉄滓の中で、BC(精練滓+鍛錬滓)領域の近くに集中してある製煉滓▲が気になった。図466は原料の分布図で、●が砂鉄、▲が鉱石である。原料を製錬すると、その製錬滓は原料の左上または左の組成となり、出来た精錬系鉄塊は右下または下の組成になることが予想される。BC領域の近く製煉滓は、図466の右下にあるTiO2とMnOの少ない原料を製錬して出来たものと考えられる。これらの製錬滓に鉱石系のものが多いのがそれを証明している。合致率が88%と上がらなかったのも、これらが大きく影響していた。
私の目的は5世紀以前に製錬を伴なう製鉄が行われたという証拠の鉄滓を分析値から見つけることである。もしも、製煉滓のみならず精錬滓もその証拠になるのであれば、合致しなかった鉄滓をプロットした図465の製錬領域にある精錬滓も、精錬領域にある製錬滓も、その証拠となる鉄滓となる。5世紀以前に製鉄が行われた証拠を、製鉄指標が0.75以上の鉄滓としたとき、製錬滓・精錬滓を選別する信頼性は95%(鉄滓435点中20点が鍛錬滓)あると言える。なお、原始的な製錬方法は直接製錬と言われ、1150℃前後の低温で錬鉄(海綿鉄)を造り、鍛打して鉄塊にしている。原料としては鉄の含有率の高い、不純物(TiO2,MnO)の少ない鉱石・砂鉄が用いられる。これらからすると、直接製錬の製錬滓は図表465の▲●のように精錬領域にあることが多く、その意味でも製鉄が行われた証拠には、製錬滓と精錬滓の両者を選別しておく必要がある。