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72-2.『古事記』の編年と倭の五王 [72.『古事記』と『日本書紀』の編年を合体]

歴史・考古学者は『古事記』の崩御干支を基に古代天皇の年代を定めている。その崩御干支の暦年への変換の通説は、天皇と天皇の間は干支一」廻り以内との原則で決められたいる。『古事記』の示す各天皇の崩御の年代(通説)の精度がどれ位のものであるか知るために、『宋書』倭国伝と帝紀に記載された倭の五王の年代と比較した。倭の五王については、江戸時代から現在に至るまで、多くの学者・研究者により検討されているが、未だ『宋書』記載の讃・珍・済・興・武の倭の五王が、どの天皇に当たるか定説がない状態にある。

 

倭の五王の比定は江戸時代の儒学者松下見林によって扉が開かれた。松下見林は倭の五王の名と天皇の諱(いみな)とを字の意味と字の形について比較し、讚は履中天皇、珍は反正天皇、済は允恭天皇、興は安康天皇、武は雄略天皇に比定した。著名な儒学者の新井白石は字の音の類似を比較し、松下見林と同じ結論に達している。そして、国学者の本居宣長は『日本書紀』の紀年から、五王の遣使は天皇の事績ではないとして、讚・珍・済は允恭天皇の代、興と武は雄略天皇の代のことであるとした。

 

明治時代には、那珂通世が『書紀』の神功・応神紀に記された百済王は,干支二廻り(120年)り下げると年代が一致することを見つけた。そして自らの年代論をもとにして、讚は履中天皇、珍は反正天皇、済は允恭天皇、興は安康天皇、武は雄略天皇と江戸時代の儒学者と同じ比定を行っている。政府の修史局(歴史編纂事業)にいた星野恒は、「崇神帝以後の年代は古事記に従えば大差なきに近し」と紀年表を発表した。これを見た那珂通世は讚を履中天皇から仁徳天皇へと修正すると発表している。また、修史局にいた菅政友は、『宋書』の「済死す。世子興遣使」の世子とは日嗣(ひつぎ)の皇子を意味するとして、興は履中天皇の第一皇子の市辺押磐皇子であるとの説を発表した。興については、修史局にいた久米邦武が、允恭天皇の長男で同母妹の軽大娘皇女と通じたとして次男の穴穂皇子(後の安康天皇)によって廃された木梨軽皇子であるという新説を出している。明治時代には、讚は仁徳天皇、珍は反正天皇、済は允恭天皇、武は雄略天皇であることは固まっている。

 

昭和時代の戦後、東洋史学者の前田直典は『宋書』倭国伝の武の上表文にある祖禰にも注目し、讚は応神天皇という説を発表している。この説は一時定説になった感があったが、数年後には橋本増吉、近藤啓吾、丸山二郎、井上光貞などの著名な歴史学者の反論に会っている。倭の五王の比定は今にいたっても定説がないという状態である。

 

Z437に応神天皇崩御から雄略天皇崩御までの、『古事記』記載の情報を示した。なお、安康天皇については、崩御干支の記載がないが、安康天皇が皇后長田大郎女の前夫の7歳の子供の目弱王(眉輪王)に殺されたの話が『書紀』と同じであることから、『書紀』の在位3年を採用している。また、在位については崩御間の値(空位含む)を算出している。

 

Z438.倭の五王の比定.png

『古事記』の天皇崩御干支の通説は、応神天皇の甲午は394年、雄略天皇の己巳は489年で、『宋書』倭国伝・帝紀では、讃が初め貢献したのが421年、武が最後に貢献したのが478年である。これからすると、倭王の5人は、仁徳・履中・反正・允恭・安康・雄略の6人の天皇で、誰か一人の天皇が貢献していないことになる。倭の五王、讃・珍・済・興・武の年代と『古事記』の編年が一致するか比較したのがZ438の表である。

 

「古事記干支」の欄を見れば、倭の五王、讃・珍・済・興・武の比定が江戸時代から現在に至るまで、諸説が乱立し定説が定まらなかったことが理解できると思う。「プラス5年」の欄は、応神天皇から安康天皇までの崩御年にプラス5年した(5年繰り下げた)年代との比較である。応神天皇から安康天皇の崩御年にプラス5年すると、『宋書』倭国伝と帝紀に記載された倭の五王の讃・珍・済・興・武の年代とピッタリ一致し、讚は仁徳天皇、珍は反正天皇、済は允恭天皇、興は安康天皇、武は雄略天皇であることが一目瞭然である。「プラス5年」は「プラス4年」でも、「プラス6年」でもダメで、「プラス5年」でなければならない。これは江戸時代から現在にいたるまでの学者・研究者が知らなかった大発見かも知れない。こんなことが起こるのは、『古事記』の天皇崩御干支は伝承されたものではなく、『書紀』と同じように編年されたものであるからだろう。


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