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66-2.我国の鉄器の初現は紀元前4世紀後半 [66.弥生時代に製鉄はなされたか?]

北部九州の弥生中期の甕棺墓からは、鏡・青銅器・鉄・ガラスなどの遺物が出土する。甕棺の型式別編年はなされており、その相対編年は信頼がおけるが、絶対年代(暦年:西暦)はあまり信頼が置けない。甕棺と日用土器の接点は少なく、炭素14年代測定による日用土器の編年もすんなりとはあてはまらない。私は、歴博の炭素14年代による日用土器の編年と甕棺の編年をマッチングさせることを試みた(Z265)。

 

Z265-Z267.甕棺編年.png

九州大学では型式が明確な甕棺から出土した人骨の炭素14年代測定を行っている(Z266)。歴博が調べた日本産樹木の年輪年代(較正年代:西暦)と炭素14年代のグラフを、私が定めた甕棺型式の編年で区分し、人骨の炭素14年代値をその甕棺型式の範囲の中で当てはめてみた(Z267)。6個の測定置が全て、日本産樹木の炭素14年代値と合致するところにプロット出来た。このことは、甕棺の編年が合っている証であるといえる。そして、弥生時代中期の始まりを紀元前375年と定めることが出来た。甕棺の型式の年代を明確にすることで、北部九州の弥生中期・後期の墳墓に副葬された遺物の出現期・消滅期の暦年が明確にすることが出来た(図Z268)。

 

Z268.弥生中期後期の遺物.png

我国の初期の鉄器(鋳造鉄斧)の多くは、竪穴式住居に近隣する袋状土坑(貯蔵穴)から見つかる場合が多く、甕棺墓・木棺墓などの墓から出土することは無い。北部九州で城ノ越式土器(前350~300年)と鋳造鉄斧が共伴したのは、北九州市の中伏遺跡、新吉富村の中桑野遺跡、小郡市の北松尾口遺跡、朝倉市の上ノ原遺跡などであり、須玖Ⅰ式土器(前300年~200年)との共伴は、北九州市の馬場山遺跡、小郡市の一ノ口遺跡・若山遺跡・中尾遺跡・大板井遺跡、朝倉市の東小田遺跡などである。城ノ越式土器・須玖Ⅰ式土器の時代は、細形青銅武器(剣・矛・戈)と多鈕細文鏡が甕棺墓に副葬される時代である。韓国で鋳造鉄斧が出現するのは、多鈕粗文鏡が多鈕細文鏡に変わった直後で、合松里遺跡(忠清南道扶余郡)・素素里遺跡(忠清南道唐津郡)の木棺墓から細形銅剣・多鈕細文鏡と鋳造鉄斧が共伴して出土している。韓国と我国の鋳造鉄斧の形状は異なるが、出現する年代はほぼ同じであると考えられる。

 

多くの鉄器の分析を手がけられた大澤正巳氏は、城ノ越式土器と共伴した北九州市の中伏遺跡の二条突帯鋳造鉄斧の破片を分析され、白鋳鉄の表面が脱炭処理された白心加鍛鋳鉄と判定されている。愛媛大学の村上恭通氏は、『東アジア青銅器の系譜』の「東アジアにおける鉄器の起源」の中で、「燕国では戦国時代前期から鋳造鉄器が存在した。前期は硬くて脆い白鋳鉄のみ、後期になってねずみ鋳鉄・可鍛鋳鉄など利器に適した鋳鉄が増加する。しかも、後期には鋳鉄を脱炭する技術も確立されており、強靭な刃物の鍛造が可能となっている。」と述べておられる。中国の戦国時代は、紀元前403年に晋が韓・魏・趙の3つの国に分かれてから、紀元前221年に秦による中国統一がなされるまでとされている。私の編年では城ノ越式土器は350年~300年で戦国時代前期後半である、村上氏の見解に従えば、その時期燕国では脱炭の技術は確立していない。

 

『春秋時代 燕国の考古学』を著した石川岳彦氏は、小林青樹氏との共同で「春秋戦国期の燕国における初期鉄器と東方への拡散」を発表し、燕国では遅くとも紀元前5世紀前半から鉄斧などの日用利器が出現しており、朝鮮半島における鉄器の出現は紀元前5世紀後半であるとしている。従来、燕国での鉄器の出現は戦国時代の初め、紀元前400年頃と考えられていたものが、100年遡り春秋時代、紀元前500年頃と考えられるようになった。こう考えると、燕国で脱炭の技術が確立したのも100年遡り、戦国時代の初めの紀元前400年頃と考えることが出来る。弥生中期の初めの城ノ越式土器(前350~300年)と共伴した鋳造鉄器に脱炭処理がされていても齟齬はない。

 

これらを総合して考えると、我国に燕国の鉄器(鋳造鉄斧)が流入したのは、弥生中期前葉、紀元前4世紀後半(前350年~300年)、戦国時代前期後半と考える。弥生中期になって朝鮮半島から入ってきた細形青銅武器や多鈕細文鏡は威信財として墓に副葬されたが、鋳造鉄斧は墓に埋葬されることがなかった。細形青銅武器や多鈕細文鏡は王や首長の手に渡り、鋳造鉄斧は庶民の手に渡ったことを示している。

 


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