SSブログ

62-5.『書紀』の仏教伝来記事は粟田真人が書いた [62.仏教が伝来したのはいつか?]

奈良時代のはじめ養老4年(720年)に、舎人親王により撰上された『日本書紀』は、日本の最古の正史であるが、『書紀』を実際に執筆した人物は明らかになっていない。『書紀』を科学的に分析されたのが、『日本書紀の謎を解くー述作者は誰がー』(1999年 中公新書)を書かれた森博達氏だ。氏は漢文で書かれている『書紀』の言葉と表記(音韻・語彙・語法)を分析し、『書紀』30巻をα群・β群・巻30に三分した。α群は唐人が正音・正格漢文で執筆し、β群は倭人が倭音・和化漢文で述作したとしている。因みに、α群は雄略紀から崇峻紀までのB1と、皇極紀から天智紀までのB2に二分され、何故か推古紀・舒明紀がβ群となっている。もちろん、仏教伝来の記事がある欽明紀はα群B1に属している。

 

森博達氏は、α群は持統朝(687~696年)に書かれたとし、述作者を正音・正格漢文が書ける唐人として、α群B1(雄略紀から崇峻紀)の述作者は、660年の唐と百済の戦いで百済の捕虜となり、661年に献上されて来朝し、音博士(漢音による音読法を教える)として朝廷に仕えた唐人の続守言としている。しかし、欽明紀の仏教伝来の記事(α群B1)に引用されてある『金光明最勝王経』が漢訳されたのは、持統朝より後の703年であり、α群B1は持統朝に書かれたとする森博達氏の説は成り立たないと思う。

 

森博達氏・藤井顕孝氏・井上薫氏・皆川完一氏のそれぞれの意見より、『書紀』α群B1の述作者は、『金光明最勝王経』と関わりがあった者で、長期に渡って唐に留学した倭人で正音・正格漢文が書け、そして、かつて僧侶として仏典を学び、後に還俗した人であるとすることができる。道慈は「後に還俗した人」の条件以外は、これらの条件を満足する。『金光明最勝王経』を持ち帰ったのは、養老2年(718年)12月に遣唐使船で帰国した道慈であると唱え、『書紀』の仏教関係の記事の述作に道慈が関わったと考えるもが通説となっている。『金光明最勝王経』と関係あるα群B1は、雄略紀から崇峻紀であり、その間には12代の天皇が在位しており、道慈が帰国後1年5ヶ月で、それらの全てを述作したと考えるには無理がある。また、森博達氏の言われる唐人の続守言が持統朝(687~696年)に書いたものを、道慈が帰国後仏教関係の記事を書き直したとするのも考え難い。

 

粟田真人はα群B1の述作者としての条件を全てクリアーしている。白雉4年(653年)の遣唐使船に留学僧として随行し、唐で学問を修めた。帰国後、還俗して朝廷に仕え、天武天皇10年(681年)小錦下の位を授かり、大宝2年(702年)6月に遣唐使執節使として唐に渡っている。遣唐使執節使として出向いた唐で、則天武后に「真人は好く経史を読み、文章を解し」と言わせたことからしても、唐人と同等の正音・正格漢文が書けたと思われる。粟田真人が704年に『金光明最勝王経』を持ち帰ってから、『書紀』の完成までに17年間もあり、『書紀』のα群B1の述作者は粟田真人であると考える。

 

粟田真人が亡くなったのは、『日本書紀』が舎人親王により撰上される1年3ヶ月前の養老3年(719年)2月5日である。本来、推古紀・舒明紀は粟田真人が書く予定であったが、天武紀を書いた紀清人が代りに記述した。α群は雄略紀から崇峻紀までのB1と、皇極紀から天智紀までのB2に二分され、何故か推古紀・舒明紀がβ群となっているのはこのためである。なお、α群B2は粟田真人がα群B1より先に書いたか、森博達氏がα群の述作者とする唐人の薩弘恪あるいは続守言かもしれない。

 

仏教伝来において、聖明王が「仏を広く礼拝する功徳」をのべた『書紀』の原史料には、曇無讖が421年頃漢訳した『金光明経』の初めの部分が書かれてあったと想像する。

「是金光明 諸經之王 若有聞者 則能思惟 無上微妙 甚深之義」

『金光明経』の「是金光明 諸經之王」(これ金光明経は 諸經の王であり)と、『金光明最勝王経』の「金光明最勝王経、於諸経中 最爲殊勝。」(金光明最勝王経は諸経の中で最も優れたものである。)とは同じことを言っており、粟田真人は唐から持ち帰った『金光明最勝王経』を引用しながら、欽明13年の仏教伝来の記事を述作した。粟田真人は仏教の有難味を表現するために『金光明最勝王経』を引用しただけの話であり、歴史を捏造したわけではない。仏教伝来は『書紀』の通り、欽明13年(552年)に百済の聖明王から伝えられたと考える。


nice!(2)  コメント(0) 

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。