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54-3.土師氏を知れば臣・連の起源が分かる [54.『日本書紀』から探るウジとカバネの史実]

倭国(ヤマト王権と大和王権)の政治体制で最も重要な役割を果たしたのは、臣(おみ)のカバネをもった蘇我氏・和珥氏・平群氏・巨勢氏と連(むらじ)のカバネを持った大伴氏・物部氏・中臣氏などの氏族である。臣のカバネを持つ氏族が連のカバネを持つことは無く、またその逆もない。しかし、土師(土部)氏は連のカバネを持つ氏族であるが、臣のカバネを持った時代があったのである。土師氏を知ることにより、臣・連の意味する所やその起源が分かると考える。

土師(土部)氏が登場するのは、『日本書紀』垂仁32年の記事である。皇后日葉酢媛が亡くなられたとき、野見宿禰は出雲国の土部を使い、埴輪を造って陵墓に立て、殉死の代りとした。天皇は大そうお喜びになられ、この功績により野見宿禰は土部の職掌に任じられ、本姓を改めて土部臣を賜っている。そして、「これが、土部連らが天皇の喪葬を掌ることになった縁であり、野見宿禰は土部連らの始祖である。」と結んでいる。

そもそも、野見宿禰が書紀に登場するのは、相撲の起源となった垂仁7年の記事である。当麻邑に当麻蹶速という力自慢の者がいて「四方を探しても、私に匹敵する者はいないだろう。」と豪語していた。そこで、出雲国の野見宿禰という勇士と蹶速を取り組ませようということになった。野見宿禰が召し出されて、出雲からやって来て、当麻蹶速と相撲をとった。野見宿禰は彼の腰を踏み折って殺し勝ったので、当麻蹶速の土地を賜った。野見宿禰は、そのまま留まって朝廷にお仕えしたという話である。野見宿禰は出雲国の家臣から、ヤマト王権の臣下へと鞍替えしたのである。

Z82.ウジの本拠地.png野見宿禰が「土部」というウジを賜ったのは、土部の職掌に任じられたからであり、「臣」というカバネを賜ったのは、朝廷に仕える臣下となったからであろう。ヤマト王権時代の「臣」は王権に直接仕えるものに与えられた尊称で、カバネ「臣」の起源となるものと考える。允恭紀以前にウジあるいはウジと臣のカバネを持つ氏族、穂積臣・阿倍臣・葛城臣・平群臣・蘇我臣・膳臣の本拠地は、図Z82に示すように、全て大和国(奈良盆地)にあり、ヤマト王権に直接仕えていたことが分る。

仁徳53年(416年)の記事には、「白鳥陵の陵守どもを土師連らに授けられた。」とある。垂仁32年(291年)の記事と比較すると、ウジが「土部」から「土師」に変わっている。どちらも「はじ」と読んでいるが、本来「はじ」と呼ばれていたのは「土師」で、「はにし」が転訛したのであろう。「土部」は「はにべ」と呼ばれていたと考える。埴輪作りの技術者集団であった土部
(はにべ)氏は、王権における重要な役割である天皇の喪葬を掌り、陵墓の管理にも携わる氏族として、ウジの呼称を土師(はにし)氏と格上げされたと想像する。

ウジの呼称が土部
(はにべ)から土師(はにし)に代わると同時に、カバネも臣から連に代わっている。土師氏の職務からして連のカバネが相応しいが、仁徳天皇の時代には、天皇からカバネ付のウジを賜るシステムはあったが、職位を賜るカバネ制度はなかったと考える。それではどうして、土師氏のカバネは臣から連に代わったのであろうか。『日本書紀』の神代には、土師連の先祖は天照大神の第2子である天穂日命としている。天穂日命は出雲平定のため派遣されるが、大己貴神(大国主命)におもねって高天原に復命しなかった神で、出雲臣の先祖である。出雲国造は代替わりのたびに都に出向いて、天皇の前で「出雲国造 神賀詞」を奏上した。この祝詞の中に「出雲臣達の遠祖天穂日命」と出ている。この儀式は『日本書紀』編纂より前の、霊亀2年(716年)から始まっており、出雲臣の先祖が天穂日命であることは確かであろう。一方、当麻蹶速の相撲の相手として出雲より召し出された野見宿禰が、天照大神の子の天穂日命の末裔となっているのは、まゆつばものである。

允恭4年(447年)の探湯
(くかたち)の記事には、「群卿・百官および諸国の国造たち皆それぞれ、帝皇(天孫)の末裔だとか、あるいは天降りし者(天神)の末裔と言う。・・・その真偽を確かめるのは困難である。諸々の氏姓の人どもは、沐浴斎戒して盟神探湯をせよ。」とある。土部氏は始祖の野見宿禰が出雲出身であることから、自ら天穂日命の末裔と名乗ったのであろう。土部氏が、王権における重要な役割である、天皇の喪葬を掌り、陵墓の管理にも携わる氏族になったことから、その自称が認められたと思える。物部連は天磐船に乗って大和に天降った饒速日命の末裔であり、中臣連は瓊瓊杵尊が天孫降臨の際に随伴した天児屋命の末裔であり、大伴連もまた天孫降臨に随伴した天忍日命の末裔である。ヤマト王権の時代の「連は、「天神・天孫に連なる」氏族に与えられた尊称で、カバネ「連」の起源になるものと考える。


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