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44-2.炭素14年代測定の原理 [44.北部九州の甕棺墓の実年代]

炭素14年代測定は次のような原理に基づいている。地球に降り注いでいる宇宙線が地球の空気と衝突して中性子が出来る。さらに、この中性子が空気の中にある窒素原子と衝突して、放射性炭素14原子が生成する。この炭素14原子は酸素と結びついて二酸化炭素となり、普通の二酸化炭素(炭素12)に混じり大気中に拡散している。一方、放射性炭素14は電子(β線)を放出し、5730年で半分になる速度で壊れて窒素14原子に変わっている。生成する炭素14と壊れる炭素14の量はバランスが取れていて、大気中にはいつも一定の量、炭素原子全体の約1兆分の1だけ炭素14が存在している。

光合成(炭酸同化作用)をする植物(含む海草)は、この二酸化炭素を取り込むので、植物組織の中にも同じ割合の炭素
14原子を含んでいる。また、植物を食料とする動物や人間も同じ割合の炭素14原子を含んでいる。これらの生物が死んでしまうと、新たな炭素の取り込みがなくなるので、その時点から炭素14は壊れる一方である。遺物の中にある炭素14の濃度が、生前の半分、2兆分の1になっていることが分れば、その生物は5730年前に生命活動を停止したということが分る。炭素14濃度を測定すれば、その生物が死んだ年、炭素14年代が分かる。


Y2.較正曲線.jpg炭素14濃度から導き出した、炭素14年代と実際の年代は必ずしも一致しない。炭素14年代の算出では、過去から現在まで大気中の炭素14濃度は一定であると仮定しているが、実際は地球に降り注ぐ宇宙線が変動していて、その結果炭素14の生成量が変わり、年によって大気中の炭素14濃度が変わっているためである。そこで、年輪年代の分かっている北アメリカ・ヨーロッパの樹木を使い、10年ごとの試料を抽出し、炭素14濃度を測定して、炭素14年代を較正年代(暦年)に変換する国際標準の較正曲線がつくられている。日本産樹木を使った較正曲線も歴博で作成されている。図Y-2に日本産樹木年輪試料による較正曲線(JCAL)と国際較正曲線(IntCal04)を示す。

炭素
14年代測定法が完璧かと言えばそうではない。炭素14年代の測定値には±30~40年(弥生時代)程度の誤差もありうる。例えば、図Y-2で炭素14年代が2200±30年(赤線)と測定されたとき、較正年代(暦年)はJCALで見ると、大ざっぱに見る370BC~200BCの可能性があることになる。もちろん、この中には可能性の高い領域、可能性の低い領域が存在する。170年間の幅であれば“歴史の事象の年代を決めるには使えない”と思われるかもしれないが、そうではない。370BC以前ではなく、200年以後ではないことが明確に言えることが大切なことだ。多くの資料を測定すれば、その範囲は狭まってくる。

炭素14年代測定では異常値が出る場合もある。二酸化炭素は水に溶けるので、海水や河川・湖沼の水の中にも、炭素
14原子を含む二酸化炭素が存在している。ただ、海洋深層では表層より炭素14濃度が低い。その深層が海流により表層に現れるので、その影響を受けた海洋生物の炭素14濃度は,陸上生物の炭素14濃度に比べ低く、古い年代を示すことになる。これは海洋リザーバー効果と呼ばれている。私自身で炭素14年代をプロットしていて気付いたことであるが、較正曲線が山のピーク、谷のボトムを示す年には、測定値はピークではより高い、ボトムではより低い異常値が出ているように感じた。しかし、これらの異常値も、多くの資料を測定すれば見つけることが出来る。炭素14年代測定には色々な問題点があるが、考古資料の実年代(暦年)の比定には、大きな武器であることには間違いないと思う。



 



 


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