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37-3.仏教伝来した年は552年 [37.仏教伝来を解明する]

『書紀』の欽明13年(552年)には、百済の聖明王が仏像と経論を献じ、仏を広く礼拝する功徳をのべた仏教公伝の記事がある。「この法は諸法の中で最も勝れております。解かり難く入り難くて、周公・孔子もなお知り給うことが出来ないほどでしたが、無量無辺の福徳果報を生じ、無情の菩提を成し。」宇治谷孟訳『日本書紀下』。 

『書紀』の原文では、「是法於諸法中最爲殊勝難解難入。周公・孔子、尚不能知能生無量無邊福德果報乃至成辨無上菩提」である。唐の義浄が長安3年(703年)10月に漢訳した『金光明最勝王経』の「巻一、如來壽量品」では、「金光明最勝王経、於諸経中 最爲殊勝難解難入。聲聞獨覚、所不能知能生無量無邊福德果報 乃至成辨無上菩提」とある。黄色の所を見れば、『金光明最勝王経』をもとに、『書紀』が記述されている事が解る。これらより、『書紀』の欽明13年(552年)10月の仏教伝来は、後世の捏造であるとして信頼されていない。 

『書紀』の欽明紀が編纂される時には、その述作者の手元には、義浄が漢訳した『金光明最勝王経』があったのは間違いない史実であろう。しかし、欽明紀の述作者が仏教伝来の全てを捏造したとは思えない。「35-2.推古天皇崩御の年を考える」で示したように、『書紀』の推古36年の皆既日食の記事は、日本で目撃された記録が、『書紀』編纂の時まで残っていたこと証明していた。仏教伝来についても、述作者の手元には、仏教伝来当時の「原史料」が存在していたと考える。 

聖明王が仏を広く礼拝する功徳をのべた文章の原史料には、曇無讖が421年頃漢訳した『金光明経』の初めの部分「金光明經序品第一」が書かれてあったと想像する。
  「是金光明 諸經之王 若有聞者 則能思惟 無上微妙 甚深之義」
『金光明経』の「是金光明 諸經之王」(これ金光明経は 諸經の王であり)と、『書紀』の「是法於諸法中 最爲殊勝(この法は諸法の中で最も勝れている)は、同じ事を言っている。 

『書紀』の天武9年(680年)には、金光明経を宮中や諸寺で読経された事が記載されている。この金光明経は曇無讖の『金光明経』であるが、欽明13年(552年)に百済から伝来した可能性があるのだろうか。『三国史記』によれば、百済の聖王は19年(541年)に使者を梁に派遣し、涅槃経などの経義を持ち帰っている。この経義の中に曇無讖が漢訳した『金光明経』があったと想像する。
 

中国の南朝梁の初代皇帝武帝(在位502~549年)は、「皇帝菩薩」と言われる程、仏教に帰依していた。武帝は546年、扶南国(ベトナム南部)にいたインド僧真諦を招聘した。真諦は漢訳すると訳2万巻にもおよぶ梵文(サンスクリツト語)の経典を持参して、548年に梁の都建康(南京)に到着し、武帝の知遇を得たが、侯景の乱に遭遇し、冨春(浙江省)に赴き経典の翻訳を行った。552年梁の元帝が即位すると、真諦は建康に帰って「金光明経」を訳出している。
 

真諦は鳩摩羅什・玄奘・不空金剛とともに四大訳経家と呼ばれているが、インド僧であり梁に来たとき漢文に長けていたとは思えない。梁に来てから、鳩摩羅什や曇無讖の梵文から漢訳された経典を読み、漢文が達者になったのであろう。梁の武帝の時代、都の建康には曇無讖が漢訳した「涅槃経」や「金光明経」があったと想像出来る。
 

百済の聖明王は541年に「涅槃経」や「金光明経」を梁から授かり、欽明天皇に曇無讖の『金光明経』を奉じたのである。仏教は『書紀』の記載通り、欽明13年(552年)10月に百済から伝来したと考える。『書紀』の「原史料」には、欽明13年(552年)に百済の聖明王が仏教を伝えたという記事が、曇無讖の『金光明経』を引用して書かれていた。『書紀』の述作者は、その部分を義浄の『金光明最勝王経』を潤色して書き直した。仏教が伝来した552年には存在しない『金光明最勝王経』を、『書紀』が引用しているからと言って、「仏教伝来」が捏造された訳ではない。仏教伝来は、『書紀』の記述通りの552年と考える。

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コメント 1

いしやま

金光明経からの流れとしては、それまでの寺を廃止??? でしょうか   全国に国分寺を作り、金光明経で統一し、最後に東大寺を作ったことで、日本国の画期ですから、200年前の552年に伝来したものと創作したのでしょうか。鑑真はその後からですからどうなるのでしょう
by いしやま (2015-05-15 19:15) 

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