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19-9.古墳時代の編年が解明される日 [19.天皇陵の古墳年代を解く]

考古学において、土器・須恵器・古墳など編年を組み立てる場合、その新旧を並べる相対年代は緻密に組み立てられている。しかし、O世紀の中頃とか、西暦OO年のように暦年代を決めるのは、暦年代が確かな定点を決め、そこから相対年代を積み上げている。図55を見ると、応神天皇陵を通る点線と、仁徳天皇陵を通る実線の二つの直線が存在する。応神天皇陵と仁徳天皇陵がその定点になっている。 

応神天皇陵の古墳年代が421年以前に比定できないのは、応神天皇陵の外堤外側から、初期の須恵器TK73型式とON46型式が見つかっていることだ。大阪府堺市から和泉市の泉北丘陵に造られた泉北ニュータウンは全国でも有数の規模のニュータウンである。この地は古代陶邑といわれる須恵器の生産地であった。ニュータウンの開発に伴い、至るところから須恵器の登窯跡が発掘され、その数は千基を超えている。泉北ニュータウン内にある泉北考古資料館には、この陶邑の須恵器は五世紀半から製作されたものであると、以前は須恵器の展示の説明に記載していた。「須恵器の発生は五世紀半」、この壁を破らなければ、おいそれと応神天皇陵を五世紀半以前に比定することは出来ないのだ。
 

この壁をぶち破ってくれるのが年輪年代法である。これは、
奈良文化財研究所の光谷拓実氏が1985年頃から実用化の道を切り開いたものだ。樹木の年輪は毎年一層ずつ形成される。その年輪の幅は気象条件によって、広い時もあれば狭い時もある。この年輪幅の長期の変動パターンを標準パターンとして作り、資料のパターンがどの年代の標準パターンと合致するかを調べ、最外周の年代を知る方法だ。現在ヒノキで紀元前912年から、スギで紀元前1313年からの標準パターンが出来ている。この年輪年代法では、樹皮のある資料ならその伐採された年が年単位で知ることができる。 

年輪年代法により、3世紀後半頃と言われていた古墳時代の始まりが、30~40年繰り上がり三世紀中頃と言われるようになってきた。須恵器についてはどうであろうか。奈良時代の首府・平城宮の地下には古墳時代の遺跡がある。この遺跡から応神天皇陵の外堤外側から出土した須恵器と同じ型式の、TK73型式の須恵器の破片が出土した。その近くの同じ地層から出た樹皮のあるヒノキ材の、年輪測定法による伐採年代は412年であり、須恵器の製作開始が五世紀の始めとなって来た。
 

平成18年3月、宇治市教育委員会と奈良文化財研究所は、宇治市街遺跡から出土した須恵器について、「四世紀後半のもので最古級とみられる」と発表した。一緒に出た板材の伐採年代が年輪年代測定法と炭素年代測定法により「389年」と導かれ、須恵器の様式も古い(大庭寺式)ことから判断したという。「渡来人が技術を伝えた須恵器の生産開始時期は五世紀前半とされてきたが、定説を遡る事になる」と記している。


須恵器のTK73型式に先行するTK232型式(大庭寺式)は389年に存在したこと、そして、TK73は412年に存在したことは、既に確認できている。応神天皇陵の古墳年代を400年以前に確定してもおかしくない資料が増えつつある。
 

近つ飛鳥博物館の常設展の年輪年代測定コーナーに、応神天皇陵の外堤から出土した笠形木製品が展示してある。その年輪年代は302年であった。この年代はあまりにも古いので、以前から気になっていた。年輪年代法を完成された光谷氏の講演を聞いた後、笠形木製品の年輪年代についての質問の手紙を送らせていただいた。するとご丁寧な葉書をいただいた。「笠形木製品の年代は伐採年代ではありません。その正確な年代を求めることは大変難しいことです。推定ではありますが、西暦400年あたりまで下ることはないと思われます。正しくは302年+αということでご理解ください」とあった。応神天皇陵の外堤はから出土した笠形木製品の年輪は、応神天皇陵が400年以前に造られた可能性があることを示している。
 

応神天皇陵の古墳年代の430年を40~50年繰り上げ、それに伴い応神天皇以前の天皇陵の古墳年代も同じように繰り上げると、全ての天皇陵が実線の付近に分布してくる。宮内庁は天皇陵の研究者による立ち入りを順次行っており、これから天皇陵の情報も増えてくるであろう。また、須恵器のTK73型式と樹皮のついた木材が一緒に出土することがあれば、年輪測定法が須恵器の絶対年を明らかにしてくれるであろう。
 

天皇陵の古墳年代が図55の実線の付近に直線的に確定されるときが、そう遠くない将来に必ずくると確信する。そのとき、私の元年表が正確であると、証明される日でもある。そして、日本書紀が歴史の表舞台に立ち、歴史・考古学が築かれて来た成果と互いに補完して、新しい視点にたった展開が開かれると確信する。

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